大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(行ツ)154号 判決 1981年10月30日

東京都港区六本木一丁目五番一〇号麻布ハイツ内

上告人

日本ペンタ株式会社

右代表者代表取締役

佐藤克明

右訴訟代理人弁護士

春田政義

神奈川県横須賀市上町三丁目一番地

被上告人

横須賀税務署長 中川賢一

右指定代理人

古川悌二

右当事者間の東京高等裁判所昭和五四年(行コ)第九〇号物品税決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五五年九月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人春田政義の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下忠良 裁判官 栗本一夫 裁判官 鹽野宜慶 裁判官 宮﨑梧一)

(昭和五五年(行ツ)第一五四号 上告人 日本ペンタ株式会社)

上告代理人春田政義の上告理由

原判決には物品税法七条一項の解釈を誤った違法がある。

一、いわゆる原材料等の供給によるみなす製造者に関し、製造者とみなす場合の要件として委託者が供給すべき原材料等について、旧物品税法(昭和三七年法律第四八号による改正前のもの。以下、旧法という。)六条三項が単に「原料、労務、資金等ヲ供給シテ」と規定していたのに対し、物品税法七条一項が、「第二種の物品の製造に必要な」材料若しくは原料についてはそのうち「主要なもの」を、資金若しくは労務についてはその「全部若しくは大部分」を供給した場合と規定した趣旨が、製造者とみなす場合を制限するにあることは極めて明白である。

課税庁は、旧法の下においても、製造者とみなす場合を或る程度限定的に解し、「原料の供給とは、製造を委託した第二種又は第三種の物品の製造の用に供する原料又は材料の全部又は当該物品の数量に見合う主要原材料又は主要部分品を提供すること」を、また、「資金の供給とは、製造を委託した第二種又は第三種の物品の製造のための原材料の購入、賃金の支払等製造に直接必要とする資金の大部分を提供すること」を意味するものと解していたのであるが(旧物品税法基本通達昭和三四年七月一日間消四―一八等三九条二項、乙第三号証二七九頁)、いくら課税庁の公権的解釈であるからといって、法文に根拠のないこのような恣意的限定的解釈が許されるわけはなく、東京地方裁判所昭和三七年(行)第八六号物品税課税決定処分等取消請求事件において、旧法六条にいう原料の供給とは、「当該物品の製造に必要なもので、その物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるものを提供することをいい、有償、無償を問わないが、一の物品について右の意味の原料が数種あるときは、その一種以上のものを供給すれば足りる。」との解釈が示されるに至ったのである(東京地判昭和四二年二月二二日行裁例集一八巻一、二合併号一二四頁)。

二、物品税法七条一項は、旧法六条三項の原材料等の供給に対する前記公権的解釈を踏まえて、これを整理し、より明確にしたうえ、材料若しくは原料についてはそのうち「主要なもの」資金若しくは労務については、その「全部若しくは大部分」と規定したのであるから、このような立法の経緯からすれば、原材料にいう「主要なもの」の意味が、前記通達にいう「原料又は材料の全部又は当該物品の数量に見合う主要原材料又は主要部品」を意図して規定されたものであることは明白であり、前記判決のいう意味での解釈に則るためになされたものでないことはいうまでもないのである。

しかして、物品税法七条一項は、旧法下の公権的解釈においては何らの限定も付されていなかった労務の供給についても、資金の場合と同様「全部若しくは大部分」と規定するのであって、それが内容の変更を伴う実質的な改正であることはいうまでもないのである。

三、原判決は、物品税法七条一項が、資金、労務については「全部若しくは大部分」と規定し、比率的に少くともその過半数を占める場合としているのに対し、原材料については「主要なもの」と規定し、ことさらに「全部若しくは大部分」とせず、委託者の供給に係る原材料が当該物品の原材料の総価格や総数量に占める比率においてその過半数を占める場合に限定しなかった趣旨は、委託者が委任にあたって供給する原材料については、その価格や数量をみなし製造者の指標とすることは、材質の良否や価格の変動という日常的な不確定要因と連動しやすく、徴税事務の画一性や敏速性の要請に適さないうらみがあるのに対し、原材料が物品の性状、機能、用途等について重要な特性を付与するものであるときは、かような原材料の質的機能に鑑み、これを供給して製造を委託した者自らが当該物品を製造したと同視しても不合理ではなく、かつそのような指標によることの方が、前記徴税事務の要請によりよくこたえるものであるとしたからに外ならないと解せられる旨判示しているのであるが、全くの謬論というほかはない。

前述のように、物品税法七条一項の改正は、旧法下の公権的解釈を前提としてこれに基づいてなされているのであるから、原材料について「主要なもの」と規定した趣旨は前記通達のいうように「原材料の全部又は当該物品の数量に見合う」ものと解すべきであり、全部の場合はもちろん、見合う関係にある場合でもそれが過半数を占めることは明白であるから、原判決の判断は既にこの点において前提を欠くものといわざるを得ないからである。

しかして、前記改正の意図を離れて法文解釈のうえからいえば、物品税法七条一項が前記のように規定した趣旨は、資金、労務の場合には単純に量的に評価することをみなす製造の要件としているのに対し、原材料の場合にはその物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるか否かという質的な評価をみなす製造の要件としたので、両者の間に規定のうえで差異が生じたに過ぎないものと解されるのである。

四、したがって、原判決の前記判示は的外れの議論であり、無用な説示といわざるを得ないが、原判決が、原材料について、その価格や数量をみなし製造者の指標とすることは、材質の良否や価格の変動という日常的な不確定要因と連動しやすく、徴税事務の画一性や敏速性の要請に適さないうらみがあると述べている点は、原判決の物品税に対する無理解を示すものといわざるを得ない。

けだし、第二種の物品の物品税の課税標準は販売価格に相当する金額が基準とされているのみならず(物品税法一一条)、物品税法基本通達二四条一項二号は、当該重要な特性を与えるものであるかどうかの認定が困難であるときは、その供給する材料若しくは原料の価格又は数量がその製造する第二種の物品の材料若しくは、原料の総価格又は総数量の大部分(おおむね五〇パーセントを超えるものをいう)を占めるか否かによって「主要なもの」であるか否かを判断すべきものとしているのであるから、仮に価格や数量が指標とされることがあったとしても、それによって徴税事務の画一性や敏速性が阻害されるなどということは全くあり得ないからである。

五、原判決の引用する第一審判決は、物品税法七条一項に規定する「第二種の物品に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して」とは、その供給する材料若しくは原料の価格又は数量がその製造する第二種の物品の材料若しくは原料の総価格又は総数量に占める割合の多少にかかわらず、その製造する第二種の物品の性状、機能、用途等について重要な特性を与える当該第二種の物品の材料若しくは原料を提供することをいうものと解すべく、一の物品について、右重要な特性を与える材料若しくは原料が数種あるときはその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給することをもって足り、重要な特性を与えるもののうち「主」たる一種に限る必要はないと解するのが相当である旨判示しているのであるが、このような解釈は、前記改正の経緯を無視するばかりか、法文解釈の枠を逸脱し、租税法律主義の原則にも反するものであって、到底許されるべきではない。以下その理由について詳述する。

六、物品税法七条一項は同法三条二項の例外規定であって、第二種の物品について本来納税義務を負うのが製造者であることは改めて説明するまでもない。租税法律主義の下においてはこのような例外規定は厳格に解釈されなければならないのであって、文理上当然に演繹される解釈、或は、他の規定と相まって当然に帰納される解釈を離れてみだりにこれを拡張解釈することは到底許されない。けだし、若しこのような例外規定について拡張解釈が許されるとすれば、本則と例外のいずれを適用すべきか否かは徴収権者の恣意的選択に任されるのと全く異ならないことになるのであり、本来明確かつ一義的であるべき税法の規定が解釈によって歪められることになるからである。

しかして、前記改正の経緯から明かなように、物品税法七条一項が原材料について「主要なもの」と規定したのは本来「見合う」関係を意図してなされたものであり、「見合う」ものが複数存在するわけはないのであるから、改正の経緯からしても「主要なもの」が「主」たる一種に限られるべきことは明かであるが「主要」本来の語義からしても「主要なもの」が「主」たる一種に限られるべきことは極めて明白といわなければならない。

すなわち、三省堂編修所編「広辞林」によれば、「主要」とは「おもなこと。かなめ。肝要。」を意味するものとされ、「かなめ」とは「扇の骨の根元をとじるくぎ。扇眼。」を意味するものとされており、また、諸橋轍次著「大漢和辞典」によれば、「主要」とは「かなめ。かんじん。」を意味するものとされ、「かなめ」(要)とは邦語では扇眼を意味するものとされているのである。このように、「主要」本来の語義は扇のかなめを意味するのであるが、扇にはかなめが一つしかないのと同様、原材料のうち主要なものも一つしか存し得ないのであって、主要なものが一種に限られる必要はないとする原判決の判断の誤りであることは極めて明白である。

七、しかして、物品税法七条一項がみなす製造の要件として、資金、労務の場合には「全部若しくは大部分」と規定したのに対し、原材料の場合には「のうち主要なもの」と規定したのは、資金、労務の場合には単純にその量を比較すれば足りるのに対し、原材料の場合にはその物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるという質的評価によってかなめとなるものを判断しなければならないので、量的評価をもって足りる資金、労務の場合と異って「のうち主要なもの」と規定したにほかならないのである。

したがって、原材料の場合も、かなめとなるのは一種に限られるのであり、右のような意味において重要な特性を与える原材料が数種あるときは、そのかなめとなる最も重要な一種を供給して製造を委託した者のみが製造者とみなされることになるのであって、これに至らない原材料を供給して製造を委託したとしても、これによって委託者が製造者とみなされることはないのである。

八、原判決は、物品税法七条一項が規定する「主要」とか「主要なもの」とかの文言は、法令以外で用いられる場合も、法令で用いられる場合も、一個のものに限定して用いられるものではなく、「主要なもの」が複数あることを合意するものということができる旨述べているが、原判決が法令で用いられていると指摘している証券取引法一八九条一項でいう「主要株主」、食糧管理法二条でいう「主要食糧」の場合は、「主要株主」または「主要食糧」と規定しただけでは意味内容が不明確であるので、法文上に定義規定を設けている例であり、公共用地の取得に関する特別措置法二条は「主要なもの」の内容を政令の定めに委ねている例であるから、それらの定義規定のうえで最も重要な特定の一つのものに限定されていないからといって、「主要」の文言自体に「主」たる一個のものに限定して用いられるものではないとの意味内容を持たせることはできない。ただ、道路法七条一項は、「主要」による定義規定を設けたり或はこれを設けないで使用している例であるが、道路法での用語例が税法法規の解釈の参考とすべきか否か、極めて疑問といわざるを得ない。

そのうえ、物品税法七条一項は「材料若しくは原料のうち主要なもの」と規定しているのであるが、原判決はこの点に関し、「のうち」として比較衡量の対象とされるのは、右の意味での「主要」でない原材料であることは明らかであるなどと述べているが、原判決がいったい何を述べんとするのか、その意味は全く不明というほかはない。けだし、比較衡量の結果原材料が「主要なもの」と「主要でないもの」に分けられるとすれば、「主要なもの」が一種しか存し得ないこと極めて明らかであるからである。

九、また、原判決は、原材料の場合は、資金や労務の場合とは異り、量的指標ではなく質的指標を以てすることを是としたのであるから、資金や労務の供給者が単一となるよう規定されていることとの権衡を以って上告人主張の論拠とすることも相当ではない旨判示しているのであるが、前記改正の経緯で述べたところからも明らかなように、改正法の立法者は「見合う」関係を意図して原材料の場合には「主要なもの」と規定したのであり、「全部若しくは大部分」と同様、「見合う」関係も複数存在し得ないことは明白であるから、原材料の場合には質的指標をもって評価するとしても、「主要なもの」が一種しか存し得ないことは資金、労務の場合と同様であって、これに反する原判決の判断は誤りといわなければならない。若し、原判決のいう如くであれば、物品税法七条一項が「第二項の物品の製造に必要な材料若しくは原料のうち重要なもの」と規定しないで、「主要なもの」と規定した意味などは到底解明できないのである。

一〇、以上、要するに、物品税法七条一項に規定する「第二種の物品に必要な材料若しくは原料のうち主要なものを供給して」とは、一の物品について、原判決のいう意味での重要な特性を与える若しくは原料が数種あるときはその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給することをもって足り、重要な特性を与えるもののうちの「主」たる一種に限る必要はないとする原判決の法律解釈は誤りであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明白であるので、原判決は取消されるべきものと信ずる。 以上

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